未読日記

未読も既読も生活も、そこはかとなく積もる

山口敬之『総理』

著者は(元)TBSの政治記者で、何度も社長賞を受賞した山口敬之。彼は安倍晋三やその周囲の政治家の取材を続け、極限まで肉薄し、そしてこの本で安倍晋三の実像を描き出す。

私は安倍晋三首相やその政治を評価しないが、それでも、抜群に面白かった。何が凄いかって、著者と安倍をはじめとする政治家との「近さ」だ。政治記者がしばしば政治家と個人的な関係を構築することがあるとは聞いたことがあったが、ここまでの例があるものなのかと。山口は時に安倍の私邸に行き、酒を飲み交わし、安倍の会見原稿読みを聞かされる。時には安倍と麻生太郎メッセンジャー役を果たし、政治的決断における重要な役割を果たす。そんな経験をする彼だからこそかける安倍やその周囲の政治家の実像は、時に狡猾で時に人間らしい。本書を読み終わって、政治家・安倍晋三になんとなく親近感を覚えたのは本当だ。

確かに面白い。間違いなく、抜群に面白いのだが、それでもやはり山口は安倍らに「近すぎる」と感じた。山口は本書の中で、

「取材対象に近すぎる」と批判する声があることもよく知っている。しかし、本編で繰り返し言及したように、政治のど真ん中に突っ込まなければ、権力の中枢で何が起きているのか見えないのも事実である。(Kindle版、No. 2626)

という。その通りであり、本書はど真ん中に突っ込んだ彼だからこそ書けたドキュメンタリーである。しかしながら、本書は安倍成し遂げたことや、その決断に到るまでの過程を詳らかにする一方、安倍が「なぜそれを成し遂げようとするのか」、「その信念がどれだけの妥当性を持つのか」ということへの批判的な視座は持ち合わせていない。

抜群のおもしろさと批判的視座の欠如が同居する、しかし何れにせよ読むべき本だ。